カムフラージュ 2
2002年8月25日それから私たちは、手を繋いで朝の渋谷をぶらぶら歩いた。一歩一歩踏みしめるたびに【好き】が溢れていく。
路地裏に入った時、また抱き合った。
【もう気持ちを抑えるのは限界だよ。でも、どうすればいいのかわからないよ。】と私は言った。
Sさんは【俺も限界。あいつがいなければ、とすら思うよ。りりこを苦しめてるあいつにもう遠慮なんてできない。せめて幸せでいてくれれば抑えることもできたかもしれないけど。・・・俺が幸せにする。】と言ってキスをしてきた。
柔らかい唇。
熱い熱いキス。
大きな手で私の髪を撫でた。
Sさんは彼氏の大学院の同期で親友だった。
同期の中でも私と彼氏が付き合っているのは知られている。故に私と付き合うことはつまり、Sさんはその仲間たちを敵に回すかもしれないことを意味する。
彼氏は一番の親友だというSさんだけを正式に紹介してくれた。勝手な言い分だけど、結果的にそれが運命の出会いだった。
Sさんにそういうリスク(友情を失うかもしれないこと)を負っても私とやっていけるのかということを聞いた。とっても酷なことなのだけれど。
【りりことの出会いは必然だと思ってる。自分の気持ちに正直になれるかどうか、今試されてるのかな。周りに何か言われてぐらつくような気持ちだったら、俺が幸せにする、なんて言えないよ。】
どちらにしろ、彼氏と続けていくのは無理だった。
別れるのも時間の問題だと思っていた。
ただ、Sさんと付き合うということは今は言えない。人間不信になってしまうかもしれないと思ったから。それもこれも、私たちが勝手なことをしたのだけれど、変えられない決断だから、せめて少しでも傷を深くしないように、知らせるまでには時間を置こうと決めた。
ある公園でいろんな話をして、この決断に至ったあと、私たちは結ばれた。
想像していたよりも素敵なSさんの身体をみて、私は急に恥ずかしくなってしまった。
Sさんは私に優しく触れながら、時間をかけてゆっくり私の全てを抱いてくれた。
【りりこ、綺麗だよ。このまま子どもも作ってしまいたい。全部俺の匂いにしてしまいたい。】
Sさんはたぶん女性と付き合った経験も多いのだろう。この人がモテるのは分かる。
だからかな、セックスもとても上手だった。こんな人がいたんだ、と思った程。自負するわけではないけれども、私は今まで付き合った相手にはセックスでリードできた。でも、今回は違う。驚かされるばっかり。味わったことのない快感に出会った。腰が抜けてしまいそうだった。
【俺についてこれるなんて、体力あるんだね(笑)今までの中で一番上手だよ・・本当に。その体力の持ち主なら満足できてなかったんじゃない?俺はすべてにおいて一番でいたい。そして、セックスでもなんでも、俺が一番誰よりもりりこを愛してることを示したい。こんなにも長い時間抱いたのも、抱きたいと思ったのも初めてだよ。すべてがいとおしい。】
夢で終わると思っていた時間が現実になって、信じられなかった。こんなことも起こるんだ、と私は狂喜した。
15日に旅行に行ったとき、彼氏には別れを告げよう。今までぶつけられなかった気持ちを話して、終わりにしよう。恋愛にはいろんな要素があるけれども、少しも楽しいと思えない恋愛ならしない方が良い。そう決めた。
***********************
そして、15日の夜、旅館で話をした。
私の様子が変だということに彼氏も気づいていたのか、
【最近悩みでもあるのか?俺といてもつまんなそうにしてるし。何かあるのなら言ってくれ。】
ということを彼氏から切り出してきたので、今までのことをぶちまけて話した。いつのまにか私はしゃくりあげて泣いていた。
【そんなに苦しめているとは思わなかった】と彼氏は涙声で私を抱き寄せた。
【もう気持ちが擦り切れて、一緒にいるのが辛いんだ。辛いだけになってきてたの。だから、もう終わりにしよう。最後の夜にしよう。】と私は言った。
【苦しめたのは悪かった。全然分からなかった。本当に俺がわがままだった。すまない。でも、愛してるのはりりこだけだ。それだけは本当なんだよ。信じてくれ。だから、別れたくない。変わってみせるよ。少しの間距離を置いてもいい。そしてもう一度やりなおしたい。この10ヶ月はなかったと思って貰ってもいい。りりこがいたから毎日が幸せに過ごせた。仕事も頑張れた。頼む、チャンスをくれ。】と彼氏は私に懇願した。
【遅いよ。もう遅いよ。私は少しずつ信号を送ってた。いつか分かってくれると思ってた。喧嘩したときも私はちゃんと自分の気持ちを言った。そして貴方はうなずいてくれてた。でも何も変わらなかった。ずっと好きでいたかったよ。でももう限界。疲れたよ。】
彼氏は頭を抱えてしばらく黙っていた。
話が一段落して、とりあえず私は温泉に入ってくると告げて部屋を出た。すでに時間が夜中の遅い時間だったので、温泉は貸切だった。露天に浸かってしばし頭をカラにした。ものすごいエネルギーを使ったのか、頭も身体もとっても疲れていた。
部屋に戻ると彼氏は随分とタバコを吸っていたのか、灰皿が満杯になっていた。
【いいお湯だったよ。入っておいでよ。】と私は勧めたけれど、そんな気分じゃないと言われて、それぞれの布団に入った。そして、薄明かりになった部屋で小さい頃の話などをした。
【なんか、どきどきするな。惚れた女になかなか触れられないもどかしい気持ちになってる。りりこ、愛してるよ。いなくなるなんて考えられないよ。痛いよ。】
その夜、彼氏は私にずっと愛してると言い続け、キスを求めてきた。
熱を失った私の唇。
あんなに好きだったはずのキス。
もう、自分の涙でしか潤わないキス。
この恋の最後の一滴が、落ちた。
路地裏に入った時、また抱き合った。
【もう気持ちを抑えるのは限界だよ。でも、どうすればいいのかわからないよ。】と私は言った。
Sさんは【俺も限界。あいつがいなければ、とすら思うよ。りりこを苦しめてるあいつにもう遠慮なんてできない。せめて幸せでいてくれれば抑えることもできたかもしれないけど。・・・俺が幸せにする。】と言ってキスをしてきた。
柔らかい唇。
熱い熱いキス。
大きな手で私の髪を撫でた。
Sさんは彼氏の大学院の同期で親友だった。
同期の中でも私と彼氏が付き合っているのは知られている。故に私と付き合うことはつまり、Sさんはその仲間たちを敵に回すかもしれないことを意味する。
彼氏は一番の親友だというSさんだけを正式に紹介してくれた。勝手な言い分だけど、結果的にそれが運命の出会いだった。
Sさんにそういうリスク(友情を失うかもしれないこと)を負っても私とやっていけるのかということを聞いた。とっても酷なことなのだけれど。
【りりことの出会いは必然だと思ってる。自分の気持ちに正直になれるかどうか、今試されてるのかな。周りに何か言われてぐらつくような気持ちだったら、俺が幸せにする、なんて言えないよ。】
どちらにしろ、彼氏と続けていくのは無理だった。
別れるのも時間の問題だと思っていた。
ただ、Sさんと付き合うということは今は言えない。人間不信になってしまうかもしれないと思ったから。それもこれも、私たちが勝手なことをしたのだけれど、変えられない決断だから、せめて少しでも傷を深くしないように、知らせるまでには時間を置こうと決めた。
ある公園でいろんな話をして、この決断に至ったあと、私たちは結ばれた。
想像していたよりも素敵なSさんの身体をみて、私は急に恥ずかしくなってしまった。
Sさんは私に優しく触れながら、時間をかけてゆっくり私の全てを抱いてくれた。
【りりこ、綺麗だよ。このまま子どもも作ってしまいたい。全部俺の匂いにしてしまいたい。】
Sさんはたぶん女性と付き合った経験も多いのだろう。この人がモテるのは分かる。
だからかな、セックスもとても上手だった。こんな人がいたんだ、と思った程。自負するわけではないけれども、私は今まで付き合った相手にはセックスでリードできた。でも、今回は違う。驚かされるばっかり。味わったことのない快感に出会った。腰が抜けてしまいそうだった。
【俺についてこれるなんて、体力あるんだね(笑)今までの中で一番上手だよ・・本当に。その体力の持ち主なら満足できてなかったんじゃない?俺はすべてにおいて一番でいたい。そして、セックスでもなんでも、俺が一番誰よりもりりこを愛してることを示したい。こんなにも長い時間抱いたのも、抱きたいと思ったのも初めてだよ。すべてがいとおしい。】
夢で終わると思っていた時間が現実になって、信じられなかった。こんなことも起こるんだ、と私は狂喜した。
15日に旅行に行ったとき、彼氏には別れを告げよう。今までぶつけられなかった気持ちを話して、終わりにしよう。恋愛にはいろんな要素があるけれども、少しも楽しいと思えない恋愛ならしない方が良い。そう決めた。
***********************
そして、15日の夜、旅館で話をした。
私の様子が変だということに彼氏も気づいていたのか、
【最近悩みでもあるのか?俺といてもつまんなそうにしてるし。何かあるのなら言ってくれ。】
ということを彼氏から切り出してきたので、今までのことをぶちまけて話した。いつのまにか私はしゃくりあげて泣いていた。
【そんなに苦しめているとは思わなかった】と彼氏は涙声で私を抱き寄せた。
【もう気持ちが擦り切れて、一緒にいるのが辛いんだ。辛いだけになってきてたの。だから、もう終わりにしよう。最後の夜にしよう。】と私は言った。
【苦しめたのは悪かった。全然分からなかった。本当に俺がわがままだった。すまない。でも、愛してるのはりりこだけだ。それだけは本当なんだよ。信じてくれ。だから、別れたくない。変わってみせるよ。少しの間距離を置いてもいい。そしてもう一度やりなおしたい。この10ヶ月はなかったと思って貰ってもいい。りりこがいたから毎日が幸せに過ごせた。仕事も頑張れた。頼む、チャンスをくれ。】と彼氏は私に懇願した。
【遅いよ。もう遅いよ。私は少しずつ信号を送ってた。いつか分かってくれると思ってた。喧嘩したときも私はちゃんと自分の気持ちを言った。そして貴方はうなずいてくれてた。でも何も変わらなかった。ずっと好きでいたかったよ。でももう限界。疲れたよ。】
彼氏は頭を抱えてしばらく黙っていた。
話が一段落して、とりあえず私は温泉に入ってくると告げて部屋を出た。すでに時間が夜中の遅い時間だったので、温泉は貸切だった。露天に浸かってしばし頭をカラにした。ものすごいエネルギーを使ったのか、頭も身体もとっても疲れていた。
部屋に戻ると彼氏は随分とタバコを吸っていたのか、灰皿が満杯になっていた。
【いいお湯だったよ。入っておいでよ。】と私は勧めたけれど、そんな気分じゃないと言われて、それぞれの布団に入った。そして、薄明かりになった部屋で小さい頃の話などをした。
【なんか、どきどきするな。惚れた女になかなか触れられないもどかしい気持ちになってる。りりこ、愛してるよ。いなくなるなんて考えられないよ。痛いよ。】
その夜、彼氏は私にずっと愛してると言い続け、キスを求めてきた。
熱を失った私の唇。
あんなに好きだったはずのキス。
もう、自分の涙でしか潤わないキス。
この恋の最後の一滴が、落ちた。
コメント