彼氏のことを【好きなんだ、愛してるんだ・・・一緒にいたいんだ。】という呪文を一生懸命唱えることから、私は離れることにした。彼氏を嫌いではなかった。でも、呪文なしで一緒にいるのはどんどん無理になってきていた。セックスも抜け殻としているような気分になってきていた。

次の朝、チェックアウトしてラウンジでしばらく話した。
【やっぱり諦められない。変わった俺をまた見て欲しい。】
【貴方は去るもの追わずでしょ?受身だって自分でも言っていたでしょ?それでいいのよ。私のことも追わなくてもいい。もっと貴方を受け入れてくれる女性はいるよ。チャット友達の中だって貴方のことが好きな女性もたくさんいるでしょう。私に固執せずにちやほやされるのもいいじゃないの?この10ヶ月間続けてきたんだから。】
【いや、チャットは止めるよ。りりこにかえられないよ。だから・・・・。】
【無理よ。止められるはずない。ずっと前に私が二人で旅行に行こうという話をしたとき、貴方は即座にチャットの皆で行くのもいいなと言った。そのことでちょっと拗ねた私に貴方はものすごい勢いでキレた。もうそのへんから確実に歯車は狂ってきてた。だから、無理。もうダメよ。終わりにしましょう。】
【気持ちはわかった。一度ここで別れよう。でも、やっぱりこのまま引き下がれない。】

今は何を言っても分かって貰えないだろう。
そのことは分かっていたので、私はそれ以上言うことは止めた。
別れる駅まできて、最後のお昼を食べて、しばらくの間お茶をしながら、普通の会話をした。馬鹿な話もした。最後の最後は微笑ましくいられた。そして彼氏を新幹線のホームまで送っていく間、手を繋いだ。
【このぬくもりが当たり前だと思ってた。慣れすぎてた。もう本当に触れなくなるのかな。辛いな。】と彼氏は言った。
彼氏が乗る新幹線がくる放送がなった。
もう、これで彼氏は彼氏でなくなる。
すごくずるいのかもしれないけれど、なぜか涙が出てしまった。私には迷いがなかったから、泣くつもりなんてなかった。こういうとき泣く女をずるいと思ってきたけれど、私も同じ女だった。なんで、女はすぐ涙が出るのだろう。
【泣くなよ。最後の最後まで俺は泣かせてばっかりじゃねーか。本当にごめんな。どうか、傷を癒して、また笑ってくれ。愛してるよ。】と言い、軽くキスをして新幹線に乗り込んでいった。窓越しに笑顔で手を振っていた。新幹線がゆっくりと走りだそうとした時、彼は窓にカタカナで【スキ】と書いた。

付き合っている間に、もっと私を求めて欲しかった。
心のすれ違いとは、こういうことなのだと知った。

新幹線が去った後、気が抜けてしばしベンチで放心状態だった。勝手に涙が流れていた。

さよなら
さよなら

しばらくして、私は立ち上がって涙を拭き、Sさんの待つ街への電車に乗った。電車で3時間半。これからは笑顔でいられるんだ。私は新しい道を歩き始めたんだ。幸せを探しに行こう。
もうSさんはSさんじゃない。Yくんと呼ぶんだ。

長い長い電車の旅を終え、駅の改札を出るとYくんが待っていた。
【りりこ!!間に合ってよかった。会いたかったよ。良く頑張ってここまで来てくれたね。】
【Yくん。私も会いたかったよぅ。もうエネルギー切れだよ。充電して。】
Yくんの胸に顔を埋めて、やっと安心した。
ご飯も美味しく食べることができた。
その晩も、Yくんは何度も何度も私を抱いた。
めくるめく快感に溺れて、彼の腕枕で眠りについた。
明日から彼は夏休み。しばらくずっと一緒にいられる。新しい旅に出るんだ。
どんなことが待っているんだろう。

新しい恋。
これが最後の恋でありますように。





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